自治体の公用文をやさしい日本語に翻訳する5つのコツ

 

自治体の公用文をやさしい日本語に翻訳する5つのコツ

 

やさしい日本語に取り組む、自治体職員などの公務員のみなさま。
以下のような悩みを持っていませんか?

「お知らせをやさしい日本語に翻訳したけど、わかりにくいとクレームが…」
「市としてやさしい日本語に取り組んでいるけど、わかりやすく翻訳できているか自信が持てない」
「内容の固い公用文の翻訳は難しい、コツが知りたい!」

 

本記事では、省庁や自治体にやさしい日本語翻訳サービスを提供しているダンクが、公用文を「伝わる」やさしい日本語に翻訳するための5つのコツをご紹介します。

私たちはさまざまな媒体のやさしい日本語翻訳を経験してきましたが、文章が複雑な公用文の翻訳は、特に難易度が高く苦労の連続でした。

試行錯誤の末にまとめあげた5つのコツを、本記事ではお伝えします。日々の翻訳業務などに役立てていただければ幸いです。

 

また、やさしい日本語翻訳の基本の手順と、翻訳後の見直しの方法も紹介します。

「改めて基本を確認したい」
「これからやさしい日本語翻訳にチャレンジしたい」

という方にも役立つ内容になっています。

 

やさしい日本語翻訳 基本の手順

公用文のコツを覚える前に、まずはやさしい日本語翻訳の基本の手順をおさえましょう。

すでに基本はバッチリという方も多いと思いますので、本記事では軽くしか触れていません。

詳しく知りたい方は、ダンクのやさしい日本語マニュアルも併せてご覧ください。

→やさしい日本語マニュアルを無料でダウンロード

※社名(所属組織名)、お名前、メールアドレスの入力が必要となります

 

基本の手順は、下記の4つです。

 

 ①一文を短く区切る

まずは、意味が成り立つ単位で文章を短く区切ります。
次の手順の、情報の取捨選択を行いやすくするためです。

ハサミの法則=「はっきり言う」「さいごまで言う」「みじかく言う」を意識して文章を区切っていきます。

 

②情報の取捨選択

次に、情報の取捨選択を行います。

どの情報が重要かを読み手の視点で考えて、文章の順番を整理します。
また、元の情報だけでは理解しにくい場合は補足の説明を加えてください。

 

③文章をやさしくする

情報の整理が終わったら、文章をやさしくします。

難しい単語はできるだけ避けて、簡単な日本語に書き換えます。
文末を「です・ます」調にする、受け身表現や複合動詞は使わないなどの工夫も必要です。

 

④読みやすさへの配慮

最後に漢字にふりがなを振って、分かち書きを行います。
可能であれば、イラストや図解を使うとより分かりやすくなります。

→やさしい日本語マニュアルを無料でダウンロード

※社名(所属組織名)、お名前、メールアドレスの入力が必要となります

 

 

自治体の公用文をやさしい日本語に翻訳する5つのコツ

上記基本の手順通りにすれば、わかりやすいやさしい日本語に翻訳できます!
と言いたいところなのですが、なかなかそうはいきませんよね。

公用文は、元の文章の構造がかなり複雑なことが多く、翻訳に頭を悩ませている方も多いと思います。

基本の手順を押さえた上で、これから紹介する公用文向けの5つのコツを意識して翻訳をすれば、より伝わるやさしい日本語になります。

特にコツの1つ目「結論を最初に言う」は、重要なコツです。公用文に限った話ではないのですが、このコツを意識するだけで文章はとても読みやすくなります。意識できていなかった方は、このコツだけでも覚えてください!

 

①結論を最初に言う

1つ目のコツは「結論を最初に言う」です。最も重要なコツです。

基本的に、結論=読み手が一番知りたい情報なので、文章の最初にあることが望ましいからです。


また、文章を上から順番に読んでいく人は少ないです。
文章の最初の方だけをざっくり読む人や、結論が出てこないと読むのをやめてしまう人もいます。

なので、結論を最初に言わないと、伝えたい情報を読み手が読んでくれないということもあります。

 

具体的にどうすればいいかを説明します。
まずは、この例文を読んでみてください。

 

before

接種券に同封している「新型コロナワクチン3回目接種のお知らせ」は、原稿作成時点(令和〇年〇月時点)の情報で作成しているため、18歳~64歳の接種時期を「2回目接種完了日から7カ月経過後」としていますが、現在は「2回目接種完了日から6カ月後」に変更していますので、ご注意ください。

 

赤文字部分が結論になるのですが、読み解くまでに時間がかかりますよね。

やさしい日本語に翻訳する際は、まず結論を探し、文章の最初に持ってきてください。

 

その後、文章を整理してやさしい日本語に翻訳すると、このようになります。

after

3回目の 新型コロナワクチンは、「2回目の ワクチンの 6か月後」から 打つことが できます。18歳~64歳の人の場合です。「新型コロナワクチン3回目接種のお知らせ」を 接種券と 一緒に 送りました。そこには、「2回目の ワクチンの 7か月後」と 書きました。でも、今は「6か月後」に 変わりました。


結論を最初に言うことは、伝わりやすい文章の基本にもなりますので、意識してみてください。

 

 

②省略しすぎない

情報量を減らすことでわかりやすさにつながることは確かですが、省略しすぎには気を付けてください。
特に公用文においては、意味がわかりづらくなってしまうこともあります。

例えば、役所関連の手続で提出先や具体的な手順を省略してしまうと、読み手は困ってしまいます。
シンプルで読みやすい文章にすることだけを意識していると、逆に不親切な文章になってしまうのです。

公用文では、必要な情報は漏れなく伝え、その上で文章を簡潔にする工夫が必要です。

 

具体的なケースを、例文で見てみましょう。

原文

軽自動車税は、毎年4月1日現在で原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車または二輪の小型自動車を所有している方に対して、その主な定置場のある市町村で課税されます。

 

何も考えずシンプルに翻訳すると、こうなります。

before

軽自動車税は 車の 税金です。
バイクなどの 小さい車を 持っている人が 払います。


概要だけを説明するときは、このぐらいシンプルな文章が適切な場合もあります。
ですが、「自分の持っている車が軽自動車税の対象かを知りたい」と思っている人に対しては、不親切な内容ですよね。

 

なので、このようにやさしい日本語に翻訳をします。

after

軽自動車税は 車の 税金です。
次の 車を 持っている人が 払います。
・原動機付自転車
・軽自動車
・小型特殊自動車
・二輪の小型自動車
毎年4月1日に 車を 持っている人が 軽自動車税を 払います。
いつも 車を 置いている 場所がある 市、町、村の 役所に 払います。

 

情報量は多くなりますが、必要な情報は網羅されています。
箇条書きを使ったり、文章の構成を工夫したりすることで、読みやすさも両立できていると思います。

 

やさしい日本語翻訳では、省略などの情報整理は重要な要素です。
しかし、省略しすぎると逆に伝わらない文章になることもあります。

 

③主語を明確にする

日本語では主語を省略することが多いですが、主語はなるべく省略せずに書きましょう。

例えば手続の案内で、「あなた」や「〇〇役所」などの主語が曖昧になっていると、トラブルの原因になってしまいます。
さらに、英語などの日本語以外の言語では主語を必ず書くことが多いです。主語を省略していたり、曖昧になっていたりすると、外国人にとってわかりづらい文章になってしまいます。

 

例えば、この文章の場合です。

原文

本人が請求する時で、請求書の請求者欄に本人の御署名をいただける場合には、印鑑は必要ありません。

 

主語を全て省略してやさしい日本語に翻訳すると下記のようになります。

before

書類をもらうとき 請求書に 名前を 書けば はんこは いらないです。

シンプルではありますが、ここまで主語が省略されていると、代理人が書類を請求するときなどにトラブルになるかもしれません。

 

なので、やさしい日本語に翻訳する場合は次のような文章が望ましいです。

after

あなたが 書類をもらう場合です。請求書に あなたの 名前を 書けば、はんこは いらないです。


この文章なら誤解を生まずに済みそうですね。

特に注意が必要なのは、主語を明確にしようとして間違った主語をつけてしまうことです。
主語が曖昧な日本語では起こりうる失敗です。自分が把握しきれていない情報を翻訳するときは、しっかり調べて翻訳をする、詳しい人に確認してもらうなどの配慮が必要です。

 

お知らせや手続の案内などの公用文では、主語が重要となる書類が多いです。主語を明確にする翻訳を心がけましょう。

 

④言葉の説明は全部<>にしない

やさしい日本語では、専門用語などの固有名詞や、覚えるべき言葉は<>書きで説明することが推奨されています。在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインより)

 ただし、公用文では説明が必要な言葉が1文中に2~3個出ることもあります。
全てを<>書きで説明してしまうと、何度も文章が分断されて読みづらくなってしまいます。

<>書きでの説明は有効な手段ですが、可能であれば一部の言葉は文中や別の箇所で説明するなどの工夫が必要です。

 

下記の文章は、全ての専門用語を<>書きで説明した場合です。

before

転出届<=今と 違う町に 引っ越しをするときに 出す 紙。引っ越しをする前に 住んでいた 場所の 役所に 出します>を もらうときは、本人確認書類<=あなたのことが わかるもの。在留カードや 運転免許証など>と、印鑑<=はんこ>を 持ってきてください。国民健康保険証<=会社などで 働いていない人が 医療保険に 入るときに もらうことができる カード>と印鑑登録証明書<=住んでいる 町の 役所が、あなたの はんこであることを 認めたことが わかる 紙>を 持っている場合は 一緒に 持ってきてください。


本文の流れが、用語の説明で何度も分断されてしまい、読みづらいですよね。

 

以下は、<>書きで説明をしつつ、文中にも説明を入れ、文章も編集した場合です。

after

転出届は 引っ越しをするときに 出す 紙のことです。引っ越しをする前に 住んでいた 場所の 役所に 出します。
転出届を もらうときは 次のものが 必要です。
・在留カードや 運転免許証など(あなたのことが わかる 書類)
・印鑑<=はんこ>

次のものを 持っている場合は 一緒に 持ってきてください。
・国民健康保険証<=会社などで 働いていない人が 医療保険に 入るときに もらうことができる カード>
・印鑑登録証明書<=住んでいる 町の 役所が、あなたの はんこであることを 認めたことが わかる 紙>


こちらの方が、読みやすいですよね。

 

⑤「公用文だから丁寧に…」という先入観を捨てる

敬語や細かな言い回しなどの、「公用文だから最低限ここまでは丁寧にしないと…」という先入観は、捨てた方がいいかもしれません。

文章冒頭のあいさつや、発信者目線の細かな事情の説明などは、思い切って省略しましょう。ほとんどの場合、読み手にとって必要のない情報だからです。
特に外国人の場合、わからない文章をなんとか調べながら理解しようとする人も多く、余計な負担になってしまいます。

 

例えば、下記のような時候の挨拶は、必要な情報ではないですよね。

春寒次第にゆるみ一雨ごとに暖かさがまして沈丁花がほのかに香るこの頃桃の節句も過ぎ、すっかり春めいてまいりました。


なにより、この文章をやさしい日本語に翻訳するのも、非常に骨の折れる作業です。

 

ここでは例示しませんが、これらの文章をやさしい日本語にしてしまうと、冗長なうえに特に意味のない文章になってしまいます。
なので、公用文だからと定型的に入れてしまっているあいさつ文などは、できる限り省略しましょう。

 

但し、現場のルールや文書によっては、必要のない情報でも省略できない場合もあるかと思います。
その場合、他のコツを意識しながら、なるべくわかりやすく翻訳することを心がけてください。

 

最後に見直しをする

やさしい日本語への翻訳が終わったら、文章全体を必ず見直してください。ダンクでも、翻訳後は見直しを徹底しています。

見直しをするとほぼ確実に、間違った解釈で翻訳した箇所や、読みづらい箇所がでてきます。
文章の半分近くを修正するなんてこともあります。それだけ見直しは重要な工程です。

また、可能であれば翻訳をした次の日以降に見直しをすると、より客観的にチェックができます。

 

具体的な見直しのやり方は、下記の4つの方法があります。

 

①日本語として読みやすいかを確認する

まずは、文章全体をできるだけ利用者目線でチェックしてください。
やさしい日本語の観点からだけではなく、普通の日本語として読みやすいかも確認します。

何年間もやさしい日本語翻訳に携わっているダンクのスタッフでも、「この文章、冷静に考えると意味がよくわからないな……」と、見直し時に気づく事があります。

 

②ポイントに沿った書き換えができているかを確認する

前述のコツに沿った書き換えができているかを、あらためて一通り確認しましょう。
翻訳をしているときは、言葉を簡単にすることだけに頭を使ってしまいがちです。

見直し時に再度コツを確認して、必要に応じて修正をしましょう。

 

③第三者に確認してもらう

自分以外の人にも見直しをしてもらいましょう。
日本語としてのわかりやすさや、原文から意味が変わっていないかを確認してもらいます。

やさしい日本語を知らない人に見てもらうと、より客観的にチェックしてもらえます。
難しいとは思いますが、日本語教師や外国人にも見てもらうと更に文章の精度が高まります。

 

④誤字脱字のチェックをする

誤字脱字があると文章の意味が変わってしまいます。また、外国人は知らない言葉をインターネットで検索することもあるため、重要な言葉に誤字脱字があると混乱が生じることもあります。ルビも含めてしっかりとチェックをしましょう。

誤字脱字のチェックについて詳しく知りたい方は、次の記事(webサイト『ダンラク』内)も併せてご覧ください。
25年以上、校正校閲に携わっているダンクのノウハウを、体系的にまとめています。

→コツを知れば簡単!誤字脱字をチェックする方法【校正25年のノウハウ】

 

まとめ

やさしい日本語の基本を覚える

まずはやさしい日本語翻訳の基本の4つの手順をおさえましょう。

 ①一文を短く区切る

 ②情報の取捨選択

 ③文章をやさしくする

 ④読みやすさへの配慮(ルビ、分かち書き)

 

5つのコツを意識して翻訳をする

基本を覚えた上で、公用文向けの5つのコツを意識して翻訳をしましょう。

 ①結論を最初に言う

 ②省略しすぎない

 ③主語を明確にする

 ④言葉の説明は全部<>にしない

 ⑤「公用文だから丁寧に…」という先入観を捨てる

 

最後に必ず見直しをする

翻訳が終わったら下記の方法で、文章全体を必ず見直してください。

 ①日本語として読みやすいかを確認する

 ②コツを意識した書き換えができているかを確認する

 ③第三者に確認してもらう

 ④誤字脱字のチェックをする

 

本記事では、公用文をやさしい日本語に翻訳する5つのコツをご紹介しました。
いきなりすべてを実践するのはむずかしいと思いますが、「結論を最初に言う」ことを意識するだけでも、文章はとても読みやすくなります。

文章が複雑な公用文のやさしい日本語翻訳には苦労することも多いかと思いますが、本記事が少しでも日々の業務の助けになれば幸いです。

 

 

 

この記事を書いた人

森 順一郎  株式会社ダンク 「やさしい日本語プロジェクト」リーダー
1997年株式会社ダンク入社。流通チラシの校正校閲やスケジュールを管理する進行管理業務を担当。2018年やさしい日本語の存在を知り、ダンクが培ってきた編集ノウハウとの親和性を感じ活動を始める。

・2021年度 多文化共生コーディネーター研修 修了
・TBSラジオ『人権TODAY』に出演 『やさしい日本語』の意義と可能性について説明
・都庁主催『やさ日フォーラム』に講師として登壇~デザインとやさしい日本語を組み合わせた新たな手法を紹介
・文京区福祉協議会「フミコム」主催オンラインイベント『フミコムCafe』に登壇

森順一郎による「やさしい日本語研修」の詳細はこちら

森順一郎インタビューはこちら