デザインは受け取りやすくする「やさしさのひとつ」
やさしいコミュニケーション協会 黒田友子(後編)

やさしいコミュニケーション協会 黒田友子

 

株式会社ダンクが今、チカラを入れているものの1つが、外国人にも伝わる「やさしい日本語プロジェクト」です。

前回から我々「ダンクのやさしい日本語プロジェクト」のアドバイザーでもある、
一般社団法人 やさしいコミュニケーション協会 代表理事の黒田友子さんにお話をうかがっています。

 

※前編はこちら↓

今回は、インタビュー後編をお送りします。

 

黒田 友子 (くろだ・ともこ)
 一般社団法人 やさしいコミュニケーション協会 代表理事 やさしい日本語アドバイザー/日本語教師

2006年3月大阪外国語大学日本語専攻(ビルマ語専攻語)を卒業。
株式会社EMシステムズにて調剤向けレセプトコンピューターのインストラクターなどを経て、現在は外国人向けプライベート日本語レッスンとやさしい日本語アドバイザーとして区役所や民間企業でワークショップの講師を務める。
国立国際医療研究センター国際診療部と共同で、医療者向けの『やさしい日本語(医療)サポーター/インストラクター/トレーナー養成講座』を開発・開催。

「やさしいコミュニケーション協会」公式サイトプロフィールより)

 

※聞き手:ダンクのやさしい日本語プロジェクト メンバー 森 順一郎
森順一郎のインタビューはこちら

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「やさしい日本語」とデザイン

 

――黒田さんは『デザインと やさしい日本語 』っていうコンセプトをおっしゃってるじゃないですか?僕らもやっぱり見せ方とか大事だと思いますし、イラストとか、そういうのも意識してるんですか?

かなり意識してますね。「読みたい」って思ってもらったり、「なんだろう?」って興味をもってもらうために必要なのは、見せ方、デザインだと思うんですよ。キャッチコピーとかもですけど、やっぱりそのチラシを見たくなるか、読みたくなるかっていう視点もすごく大事だと思ってて。

森さんも先日の東京都の『やさ日フォーラム』の中でおっしゃってましたけど、言葉は伝えたいことを文字として表現するだけなので、じゃあその文章の見せ方をどう見せたらいいのかっていうのが大事になってきます。それを助けるのがデザインだと思うんです。

「その情報を届けたい人にどう投げればキャッチしてもらいやすいのか?」っていうことを考えることがとても大切だと思います。

例えば、キャッチボールをするとして、相手がダルビッシュ選手だったとしますよね。ダルビッシュ選手が、豪速球で投げてきたら、私は絶対に取れませんし逃げちゃいます(笑)難しい日本語のままって豪速球投げられてるのと同じだと思うんですよ。

でも、ダルビッシュ選手が、私でもキャッチできるようにやさしくボールを投げてくれたら、私でも取れると思うんです。
相手の状態に合わせて受け取りやすいボールを投げることが「やさしい日本語」だと思っています。

そしてデザインは、投げるボールをどう選ぶのかということだと思っています。
見やすいように蛍光ピンク色のボールを選んだり、直径30cmの大きさにしたり、やさしい気持ちを伝えるために軽くて柔らかい材質のボールを選んだり……そういったボールに注意を向ける工夫や受け取ってほしいイメージを伝えるための工夫が「デザインすること」だと思うんです。

 

――『やさ日フォーラム』の時は『ユニバーサルデザイン×やさしい日本語』ってテーマで話をしましたけど、僕はもう「文字だけ」っていうのでは読まないんだろうなって思ってて。Twitterみたいに、表現なんて140文字で十分みたいな(笑)。Twitterがあれだけ便利なツールとして活用されてるってことは、もうネイティブの日本人にとっては長い文章ってニーズがないのかもしれないと。

だから、パッと見てなにか印象付けるようなデザインとテキストを合わせていかないと、どんどん文字離れが進む中で見てもらうのは厳しいんじゃないかと思いますよね。
行政のお知らせだって、全部読まなきゃわかんなかったり(笑)。重要なことが一番最後に書いてあるじゃないですか。

ホント、結論をまず教えてほしいですよね。

――あれも編集というか、デザインの問題じゃないですか。

ですね。デザインは受け取りやすくする「やさしさのひとつ」なんですよね。

――僕も最初のころは営業先でそればっかり話しました。でも「日本人をバカにしてるような日本語だ」とかさんざん言われて。それに対して「対応の問題ですよ。それが必要な人もいるんです」って、こっちは反論してましたけど(笑)。

“相手に目線を合わせる”っていう理屈はこれからも変わらないですよね、やさしい日本語 がどんどん認知されていったとしても。

やっぱり誰に向けてそのメッセージを伝えたいのかが大事ですね、どういうラッピングをしてプレゼントを渡すのかじゃないけど。
紙袋のまんまで「はいよ」って渡すのか、丁寧にキレイに包装して「どうぞ♡」って渡すのかだったら、やっぱりキレイな方が開けたくなるじゃないですか。

だからデザインもあったほうが、やさしい日本語 を効果的に伝えられると思っているんですよ。

 

やさしい日本語 業界における民間企業の役割

――黒田さんにはもともと(やさしい日本語ツーリズム研究会の)吉開章さんを通じてダンクに協力していただいてるんですけど、最初に「私たちも やさしい日本語 やるんです!」っていう僕らのプロジェクトを見た時、どう思いました?

素直にうれしかったですよ。日本語教師じゃない人たちが「やさしい日本語 をしよう!」って取り組んでくれること自体がうれしかったですね。

「あ、興味持ってくれる人たちが日本語教師じゃなくてもいるんだ」っていうことはすごく意外だったし、ダンクさんが「やさしい日本語」のプロフェッショナルになっていけば、ダンクさんを見て私もやってみたい、取り入れたい、って思ってくれる人たちが増えるんじゃないかって期待もしました。

「日本語教師にしかできない」みたいな見せ方もあるわけですよ、やさしい日本語 には。確かに“確認”って意味で日本語教師は必要だと思うんですけど、やさしい日本語 を作って使うこと自体は、学べば誰でもできるものなんです。だからそれをダンクさんが体現していってくれるって思うとすごくうれしかったですね。

――当時はここまでできると思ってなかったんですけど、黒田さんの意見とか聞いていくと『あ、なるほどね』っていうのが蓄積されていって…だから黒田さんのアドバイスのおかげで、活動に拍車がかかったっていうのは正直ありますよ。

それはよかった。うれしいです。

――でも黒田さんに言われてもなかなかうまくいかないのもあって…例えば、行政の文書は悩ましいですよね。
推奨されてる和語だと文章長くなるし、漢語だと文章わかりづらいし、じゃあ内容の要素を削るのかってなると、行政の文書って削れないんですよね、なかなか。

それを行政側に受け入れてもらえるといいなぁって、私は思うんですよね。

――時候の挨拶とか、我々日本人に向けた通常の文章だったらいいんですけど、それを海外の人に同じことやっちゃだめですよって話で(笑)

学校のプリントも校長先生のお話が、A4いっぱいに書かれていることも多くて。校長先生のことは好きですけど、日本語に不慣れな外国人の視点だと「大切なことだけ読みたい」って思うんじゃないかと思いますから、大幅なカットもやむを得ないなと感じることは多いです。

そういう意味では、行政も「編集される」ことを受け入れ、慣れていかないと、外国人が読みたい文章と行政として出す文章との溝は埋まることはないと思います。

――民間で流行するものって、そのうち行政も取り入れるじゃないですか。その流れで行けないかなって思うんですよね。

例えば、いままで硬い言葉で表現していた民間企業が「え?こんなやわらかい表現で!?」、「やさしい日本語 っていうの?」「内容バンバン削ってるよ」っていうのをどんどん発信していけたら、たぶん行政だって「それ面白いからやってみようか」ってなってくると僕は思うんですよ。

『民間から行政に』って、そういう流れを作っていきたいですね。

 

やさしい日本語 の継続的な訓練を

――でも、いざ取り入れるといっても「年1回、やさしい日本語 研修やってます」ってくらいじゃほとんどなんにも覚えられないと思うんですよね。週1回を1年間やって、やっとモノになるかどうかくらいの結構難しいものだから…

定期的・長期的にやさしい日本語と触れ合うことが大切だと思います。
定期的に やさしい日本語 の講座を受けて、その時抱えている課題を一緒に考え解決していくような形にすれば、やさしい日本語 を扱える人は増えると思います。

やさしい日本語 については、私たち日本語教師は日本語学習者の日本語を見聞きする機会があり、どんな間違いをしているか、どんな文法がつまずきやすいかなどを経験として蓄積しています。
いつも日本語について考えたり、学習者にどう話せばわかってもらえるのかを常に考えていますから、やさしい日本語 にするのが得意なんですよね。
外国人の不慣れな日本語でも何を伝えたいかわかりますし、伝わりやすい言葉選びも上手です。
いつも考えていることや試していることが上手になるのは当たり前ですよね。

 

――わりとすぐできるってさっき言いましたけど、すぐできる範囲って狭いですよね。そこから課題がどんどん見えてきて…

その場凌ぎのコミュニケーションだったら、 やさしい日本語 にするのは、そんなに難しくないのかもしれません。

でも現在は やさしい日本語 の活用範囲は広いですし、大切なことを伝えるための言葉として用いられています。さらに答えがないという特徴からも、やさしい日本語 に取り組めば取り組むほどに難しく感じるのだと思います。振り返ってみたときに「こんな言い方もできたのかな?」なんて思うことはたくさんありますよ。

私の『やさしい日本語(医療)研修』の中では、グループワークを行っています。
グループでやるのは、「バリエーションを持っておくことが やさしい日本語 では大事」だと思っているからなんですね。

医療現場での『やさ日リーダー』を育てるその養成講座の受講生から、「自分がリーダーとなって現場で研修をしたら『結局、外国人に伝わる言い方はなんなのか?』と “答え” を求められることがあった」と相談を受けたことがあります。

その時は、「『お腹が痛い患者さん全員に同じ薬を処方するのではなく、相手に合わせた処方が必要です。それと同じように、やさしい日本語も相手に合わせて言葉を調整する必要があります』とお伝えしてみてはいかがですか?」とアドバイスをしました。

やさしい日本語 は答えが一つではないからこそ、言葉のカードをたくさん持っておくといいと思います。
言葉のカードを増やすのにグループワークはとても役に立つんです。

――つまり「みんなで集まってみんなで考えよう」じゃなくって、「みんなで考えを共有して、各自のカードを増やそう」っていう目的なんですね。

いろんな言い方があって、その1人のAさんはこれしか思い浮かばなかったけど、Bさんは違う角度から説明してて参考になったとか、「答えは1つじゃなくって、そういう言い方もある」ってことをグループワークの中で体験してほしいんですよね。

この「手持ちの言葉のカードを増やす」のがすごい大事で。日本語教師も日本語学習者から「これ、わからない」って言われたときに、じゃあどう話そうかなって考えるわけですよ。そうするといっぱい言葉を持ってたり、視点をたくさん持ってたりすると、その物事に対して「こっちからダメだったらこっちからも」「じゃあ今度はこっち」みたいないろんなアプローチができて、「こっちの方向から説明したら理解してもらえた♪」みたいなことも結構あるんです。

だから『やさしい日本語(医療)研修』も、そのいろんな言葉のカードを集めるためにグループワークしてるんですね。

 

ダンクと一緒にこんな やさしい日本語 をやっていきたい

――最後に、ダンクとお付き合いも3年ぐらいになりますが、これから僕らとどんなことしてみたいとかありますか?

私の やさしい日本語 の目標って、「日本人側の自己満足に終わらない やさしい日本語 にしたい」っていう気持ちがあるんですね。つまり「伝わらないと意味がないよね」っていうところは意識していきたいなって思っているんです。

だからダンクさんたちも外国人座談会とかしてくれてますど、ああいう風にぜひ「日本語母語者の自己満足じゃなくって、外国人の人に伝わるよ」っていうことを確認したりとか、「外国人の方とコミュニケーションを取ったうえで、ダンクの やさしい日本語 はできてるよ」っていうのを示してほしいですね。

で、見せ方も含めてですけど、それをワークショップにしていけたら、もっともっと説得力がある研修ができるんじゃないかなって。なので私もそこに貢献したいなと思ってます。

――外国人の意見はもっと取り入れたいですよね。
「やさしいコミュニケーション協会」としてはどうですか?

まずは定期的に講座をできたらいいなって思ってます。でもこのコロナ禍はもうちょっと落ちつくのに時間がかかるだろうなと思っていて……これから日本特有の変異株なんかも出てくる可能性もありますしね。
そう考えた時に対面はコンディションのいい時にできるようにして、基本的には「eラーニング」と、「リアルタイムでWebでつながる時間」の両方を使った講座を安定供給したいと思っています。でもその準備に時間がかかっているのが現状です。

 

――これからはオンラインが主流になるかもしれないですよね。全国つながるわけですから、いちいち日本各地に回らなくても。

ホントはいろんなところ行きたいんですけどね、好きなので。

――でもやっぱり一番いいのは、好きなチラシとか自分たちの興味のあるものを持って集まってもらって、「じゃあ実際に書き換えてみましょう」って直接やってもらうことですよね。

そうですね、その方がためになるし。オンラインだとそのへんがやりづらいんですよ。
興味があることをみんなで共有しながらっていうのが、やっぱりみんなで集まってやれることの魅力ですよね。ブレイクアウトルーム(分かれてグループワークする)でもできなくはないんですけど、やりづらいので。

あとは、講座後のフォローとしてslackを使っているんですけど、うまく運営できていません。
でも受講生は「自分の作ったやさ日はあってるのかな?」とか「他の人の意見を聞いてみたい」とか「他の病院や職場ではどうしてるのかな?」とか思っているようで、受講生同士での交流も必要だと感じることがありました。ですから、受講生同士の交流やブラッシュアップの場を作る活動もしたいんですよね。

いま、『やさしい日本語(医療)研修』を受講してくれた方限定ですけど、『おしゃべりナイト』っていう、悩みとかを私や参加した人が聞けるっていう、単純に“お話する会” をやっています。

それともう一つ、さっきの話にも出たような、「今日はこの病院のこのチラシを相談しよう」みたいな、もっとクローズでもっとブラッシュアップしたい人向けのコミュニティみたいなものも作ろうかなぁと思っていますね。

――なるほど。

ほかにも「外国人の人たちに医療用語をちょっとずつ知ってもらうこと」と、それから「やさしい日本語っていうのをみなさんのために使っている人たちがこの日本にはいるんだよ、っていうのを外国人の人に知ってもらう」っていう活動をしたいんですよ。

――「やさしい日本語 を外国人に知ってもらう」ってことは、めちゃめちゃ大事ですよね。

そうなんですよ。知らないっていう人の方がやっぱり多くって、いま私もClubhouseとかで『日本語で話そう!』というルームに参加して外国人の日本語学習者の人と交流してるんですけど、そういう場所で「私は病院の人たちに、みなさんのような外国人の人と“日本語で”コミュニケーションをとる方法を教えてるんですよ」っていうのを必ず話してるんですね。

で、先ほど話した『やさしい日本語(医療)研修』の受講生がブラッシュアップするためのコミュニティを作って、日本語が話したい人とブラッシュアップしたい受講生が日本語で会話する機会などを設けて、外国人の皆さんに「わかりやすい言葉で伝えようとしている人が日本にいるよ」っていうのを知ってもらえたらと思っているんです。

――普通の人だと、いきなり外国人にアプローチできないですからね。

はい。日本語教師は日本語という共通点で、外国人と日本人の間に立つことができますよね。
日本語を練習したい、話したい人はClubhouseにもたくさんいて、レベルもバラバラなので、日本人として「やさしい日本語」を練習をするのにもってこいの場所だと思います。

学習者の人たちって、発音とか、動詞の活用とか、よく聞いていると「誤用」も聞こえてきます。でもそれに対して私たち日本語教師は、そのエラーがどうして起こったのかを探ったり、誤用を聞いても何を伝えたいのかがすぐにわかるので、それを言い直して「こう言いたかったんだよね」って“確認”できるんです。
日本語教師は言葉のエラーにはたくさん触れているぶん、母語話者の人たちよりは『間違いのキャッチ』がうまいんでしょうね。

「言ってるカタコトの日本語がわからない」って外国人を拒絶する人はたぶんその誤用がわかんないんじゃないでしょうか。
日本語教師はそれに慣れてるから、「え?通じますけど…?」なることがあります(笑)
でも、わからないことももちろんありますから、その時は、「わからないので、もう一回教えてください」とお願いしてますよ。

――そういう点は、うちのスタッフも強いかもですね。校正で誤用にも慣れてるというか。

ぜひ、Clubhouseに遊びにきてください〜!ダンクさんたちなら、上手にお話できそうですもん!

 

――そうですね(笑)本日はありがとうございました。

 

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この『マガジン』のコーナーではこれからも やさしい日本語 だけでなく
外国人がもっと住みよい、多文化共生できる社会を作るために尽力している様々な方にお話を聞いていきます。

どうぞお楽しみに。

 

 

 

この記事を書いた人

聞き手:
ダンクのやさしい日本語プロジェクト

株式会社ダンク内のプロジェクトチーム。2018年結成。
長年培ってきた総合的な“編集力”を生かし、「やさしい日本語」をより身近なものにすべく活動を続けている。

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坪内著者

構成:
坪内 悟   Satoru TSUBOUCHI

ライター。俳優や放送作家、ラジオパーソナリティ(かわさきFM『平成POPオヤジーズ』放送中)としても活動。

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