多文化共生のインフラ投資が日本の未来をつくる!
東海大学教養学部 万城目 正雄 (後編)

 

前回に引き続き今回も、日本における外国人材の受け入れと対外経済政策に詳しい東海大学教養学部准教授の万城目正雄先生に、日本の外国人労働者受け入れの現状と課題、そしてめざす多文化共生社会に向けてどのような取り組みをしていくべきか、お話をうかがいました。

 

 

城目 正雄 (まんじょうめ・まさお)万城目 正雄

 東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程准教授

国際研修協力機構勤務を経て、2016年4月より現職。専門は国際経済学。フィールドワークと関連データを中心に、外国人を送り出すアジア諸国の事情と日本の中小製造業、農業、地域社会の問題を調査研究。技能実習、特定技能などの外国人材受け入れ政策についても詳しく、メディアでも発言が取り上げられている。政府の審議会などで委員等も務める。

 

※前回インタビューはこちら

 

※聞き手:ダンクのやさしい日本語プロジェクト メンバー 桑島浩・池田宏貴

 

 

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――――企業の海外進出との関係ではいかがでしょうか。

日本の海外直接投資は、2020年はコロナ禍で減少しましたが、2019年は過去最高を記録していました。日本企業の海外進出は意欲的に、活発に行われています。海外ビジネス上の重要なパートナーとなっているのはアジアです。中小企業が中心となってアジアに進出しています。特に、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピンなどのASEAN諸国に、中小企業が海外拠点をつくり、生産・販売活動を活発化させています。その背景には、日本で少子高齢化が進む中、優秀な労働力と中間層・富裕層の拡大を伴う旺盛な海外の需要を取り込み、自社の成長につなげようとする企業が増加していることがあると考えられます。もはや、安価な人件費や生産コストのみを目当てに企業が海外に進出する時代ではなくなっているのです。
しかし、いくら技術力があっても、経営資源が乏しい中小企業にとっては、海外での生産、営業、労務管理を主導できる人材は豊富であるとはいえません。海外に進出するとなると、現地従業員の確保、育成、定着、マネジメントをどう行うのかが問題となるのです。つまり、中小企業の海外展開を成功へと導く重要なキーワードも「人材」となっているのです。

 

写真提供:株式会社ワールディング

企業の海外進出と外国人雇用との関係に関するご質問についてですね。
日本で外国人を受け入れている企業の中には、外国人労働者を雇用したことをきっかけにして、あるいは、海外への進出計画を踏まえ、進出予定の出身国の外国人を雇い入れる企業の取組がみられます。

 

ある金型生産を行う中小企業では、団体監理型により技能実習生を受け入れたことがきっかけとなり、ベトナムに現地法人を設立し、現地生産を始めました。同社では、日本の大学院に留学経験のあるベトナム人エンジニアが、日本の本社工場で就業経験を積んだ後、ベトナム法人の経営を担っています。作業現場では、帰国した技能実習生が中心となり、ベトナムでの生産を支えています。同社の社風と技術を十分に理解した人材がベトナム法人を運営しているというのです。技術レベルや品質が信頼できるだけでなく、インターネットで中継して行われる毎日の朝礼は日本語で行われているというほど、日本語でのコミュニケーションも可能だというのです。

このように、団体監理型技能実習により技能実習生を受け入れたことがきっかけとなり、ベトナム、タイ、フィリピン、インドネシア、ミャンマーなど、技能実習生の出身地域との往来の機会が増え、現地の関係者との関係が深まり、現地生産の開始に踏み切ったという企業が多数あることが報告されています。そこでは、日本の生産体制と現地の事情を理解している技能実習の卒業生が日本本社と進出先企業、進出先の現地従業員と日本人スタッフをつなぐブリッジ人材として、また、現地の生産現場を支える管理者・作業員として、さらには、日系企業などの営業担当を任される貴重な人材として活躍しているのです。

 

 

―――外国人の雇用が海外進出のきっかけになっているのですね。

はい。外国人雇用がもたらす企業への影響は、国内での優秀な人材の確保という一面にとどまるものではありません。

ご説明したとおり、文化、習慣、言語の異なる外国人と、ともに働くことで生まれる多様な視点・発想が、日本人従業員にとっても刺激となり、QCサークルやカイゼン活動などの場面で、新たなアイデアが生み出されるきっかけとなったという声も聴いてきました。

雇用した外国人が生産ラインに入るから、言語が異なる外国人でも理解できるように、作業手順のマニュアル化を進めたという企業があることもお伝えしたとおりです。マニュアルには、標準化された作業手順、作業量、品質、時間配分が記述されているため、外国人のみならず、日本人の工員の間でも活用が進み、工場全体の生産効率と品質の一定化・向上につながったという企業もあります。就業規則や指導体制を見直し、作業効率のカイゼンに成功した会社も数多くあるのです。

私は、これを「内なるグローバル化」の効果と考えていますが、人口減少社会が進む日本の現状を踏まえると、これからは、外国人の雇用をきっかけに、中小企業が海外に進出したり、貿易を始めるなど、「外へのグローバル化」が、さらに進むことを期待したいと思っています。

 

 

保険料を払いたくないのではなく、保険について知らないから払えない
地域社会に求められるイマジネーション

 

――企業の前例などを挙げていただきましたが、社会のインフラとなる自治体などの対応はどうでしょうか?

実習生の地域における存在感が高まる中、近年、自治体が多文化共生政策や地方創生政策の一環として、実習生を地域住民の一員、地域産業の担い手として支援する各地の取組が報告されるようになっています。たとえば、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を打ち立てた埼玉県の川口市や、同じく創生総合戦略でベトナムとの交流を積極的に進めている岡山の美作市、市ぐるみで交流サロンを通じた実習生との交流を行っている北海道の紋別市などで、外国人の方々を地域社会の一員として迎え入れていこう、地域産業の担い手として外国人の方々と一緒に地域を、もり立てていこうという取り組みが、自治体レベルで始まっていることが報告されています。

その取組の一つとして、日本語教育を取り入れることも行われています。日本語は日本で生活していく上での要となるものですから、しっかり支援していこうとする取り組みが、地方自治体で始まっているのです。

 

 

――お話を聞いてると、先の実習生の監理団体のように、自治体の入口の部分でいかに概要をちゃんと分かっていただけるかが非常に重要になってくる気がします。自治体に外国人対応の取材をしたのですが、皆さん、健康保険や年金など支払いが絡む説明は必ず苦労すると仰います。でも先ほどの話ですと多分、払いたくないんじゃなくて、理解ができないから揉めてしまうのではないかと思いました。

2019年に約1000人の外国人住民が回答した高齢化に関するアンケート調査の結果を集計したことがあります。主な対象は10年、20年以上にわたり日本に在住されている中南米出身の日系人の方々でした。まずは、年金に対する認識についてです。年金を知っている、内容も分かるが約半数。残りの半数は、名前は聞いたことあるけど内容はよく知らない、名前も知らないという状況でした。さらに、年金以外の老後の備えは、特にしていないと回答した方が4割を占めていました。
ちなみに、介護保険については、介護保険の名前も知らないと回答した方が約4割、名前は聞いたことがあるが内容はよく知らないが約3割、知っている、内容もわかる人が約2.5割という結果でした。

 

――日本の制度について知らないんですよね、そもそも。

 

そのようなのです。日本で生活する外国人の皆さんは、アジアと中南米の出身の方が圧倒的に多いです。日本とは社会保障の制度が大きく異なります。
さきほどの調査で、興味深い結果が得られました。日本語の能力が高い人ほど、年金や医療保険の加入率が高く、逆に日本語能力が低い人は、年金や医療保険に加入している割合が低い傾向にありました。
日本語で、読む、聞く、話すことができるか、できないかで、社会保障へのアクセス状況が異なっている現実があることがわかりました。だから、いかにして外国人の日本語能力を高めていくか、どのようにサポートするべきなのか、在留外国人の方々が、日本語でコミュニケーションが図れるよう、政策的な支援が求められているのだと思います。

 

――これも自治体の人から聞いたのですが、外国人が来る時は友人を連れてくるから、言葉に困っていない。だれか一緒になってくるから問題ないと。でも本当は一人で来たいと思っているはずなんです。課題と思っていないために、支援してあげなければならないという考え方に至らない。自立のために支援をして、それが要らなくなる時がくることが多文化共生社会だと思うんです。

 

そのように思います。日本の総人口に占める在留外国人の割合は、増加しているとはいっても、わずか2%程度にすぎません。だから、日本の社会システムが、多くの外国人が在留していることを前提に設計・運用されていない面があるというのは、ある意味では、やむを得ないこと、ともいえるのではないでしょうか。
それを変えていくことが、多文化社会づくりということなのだと思います。

 

外国人向け やさしい日本語版国民健康保険パンフレット

――先日、国民健康保険のパンフレットを我々がやさしい日本語で作り直したものなんですが、イラストを多用したりして、英文併記で作りました。

 

そうですか。まさに、そのようなパンフレットが大切になりますね。自立のための支援には、日本語の教育の機会を広く提供することとあわせて、より多くの行政情報を多言語で発信することが必要になると思います。大変、わかりやすいものになっているのではないかと思います。

 

――基本的に日本語能力検定のN3までの語彙4,500に限定し、英語と併記して、英語自体もやさしくしました。どこまで説明するか、難しいですね。あまり多いと見づらいし、どこまで削ったらいいか悩みます。最近は多言語で翻訳して読み上げるアプリもあるので、そこに誘導できるQRコードもつけました。

 

ただでさえ、日本と外国では、文化や慣習のみならず、社会システムが異なりますから、社会保障の仕組みなどは、理解されにくい面があると思います。やさしい日本語を使った、このようなパンフレットがあると理解が進むのではないでしょうか。

 

長年指摘されていることですが、ゴミの出し方や町内会のルールなど、日本人の住民の間では当たり前だけども、なかなか理解してもらえない生活のルールが、問題になっている、苦労しているという話をよく聞きます。そのようなルールについても、やさしい日本語で解説されたパンフレットがあると問題を解決する一助となるかもしれませんね。
あとは病気になったとき、病院で病状を伝えるときに困るという話をよく聞きます。技能実習生の場合は、スマホのスピーカー機能を利用して、通訳を介して病状を伝えるなど、状況によって、工夫して対応しているようです。

 

――ただ、ズキズキするとか、症状の表現が難しいですね。基本的に海外は日本語のようなオノマトペがない世界ですから。海外のスタンダードは10段階で痛みを表現しているようですね。医療は命に関わってくるので、専門的な用語などを知らないといけないですし、そうすると、やさしい日本語だけでは成立しません。

 

そのように思います。

多文化共生社会への本格的な取り組みは始まったばかりです。政策を着実に進めていくことが重要だと思います。

インドネシア技能実習生と地域住民との交流会
(写真提供:宮城県国際化協会(MIA))

ベトナム人技能実習生による小学校での国際理解教育
(写真提供:宮城県国際化協会(MIA))

自治体の取り組みについての話題ですね。2020年の秋に朝日新聞社との共同調査により、地域住民に占める技能実習生の割合が高い全国の100自治体の首長にアンケート調査を実施しました。詳しくは、2020年12月2日の「朝日新聞」朝刊2面をご覧いただければと思いますが、調査結果の一つとして、住民に占める技能実習生の割合が高い上位100自治体のうち、技能実習生が何人住んでいるかを把握していないと回答した市町村が42%を占めていたことがわかりました。

 

――かなり高いのですね。技能実習生のような外国人住民の割合が高い自治体でさえ、共生社会づくりに向けた取組には課題があるのですね。今後、長期にわたって在留する外国人が地域に定着し、子どもを育て、高齢化して、要介護になっていく。自治体もライフサイクルの視点をもって外国人住民を受け入れるというイマジネーションを持つことが必要なのではないかと思います。

 

おっしゃるとおり、ライフサイクルの視点を持つことは、とても大切だと思います。外国人を近隣の住民として受け入れることは、それほど簡単なことではないのだと思います。そういうなかで、お祭りやスポーツ大会など、地道な活動を通じて、身近に接する機会が増えることで、信頼感や親近感が育まれていくことが大切なのではないでしょうか。わかりやすい日本語で簡単なコミュニケーションをとり、それを積み上げていくことも、大事だと思います。それを側面からサポートするような先ほどの健康保険のパンフレットなどは、まさに大切な支援の一つであり、多文化社会のインフラにもなるものではないでしょうか。

 

 

外国人窓口が重要

 

――たとえば自治体の窓口などは、外国人担当窓口のように個別化したほうが対応が進むのか、それともいろいろな部門のなかに外国人担当みたいな形があったほうが進むのでしょうか?どうしても縦割りの弊害があると思えるのですが。

それは難しいご質問ですね。相談窓口を1本にしたからといって、そこで全てを解決することはできないと思います。税金、社会保障、教育、医療、介護、住居、ビザなど、様々な相談があると思いますが、どれも専門知識が必要とされるものですね。

相談者は、一か所だけでは解決できない複数の悩みを抱えていることも少なくないと思いますので、相談内容に応じて、専門の部署や機関に繋いだり、複数の専門家で解決できる体制をつくれるかが重要になるのではないでしょうか。その際、言葉の問題がありますので、コミュニケーションのサポートをどのように行うのかという点も重要だと思います。

 

 

学校では英語教育が盛んだが、
製造業や農業、建設、介護の現場では外国人が日本語をしゃべる時代に

 

――ちょっとちゃぶ台返しみたいになるのですが、日本語にフォーカスすると、いま日本国内では小学校で英語教育、外国語教育が必修化されています。日本人自体が英語に慣れて国際化に準じていけば、むしろ日本語よりも英語を標準化していったほうがグローバル化にマッチしやすいとも思えたりするのですが……。

確かに日本ではグローバル化に向けた英語の語学教育が進んでいます。グローバル化の時代の中で、英語教育の重要性はますます高まっています。そのことが大前提ですが、その一方で、製造業や農業などの作業現場では、外国人が日本語を話すことが求められる時代ともなっていると思います。

前述の中小企業の例のように、基本的に社内の公用語は日本語で、外国人は英語ではなく、日本語を使用しているのです。外国人雇用をきっかけに、海外に進出した中小企業の場合も同様で、日本語が理解できる、日本で働いた経験を持つ外国人が日本の本社と日本語でコミュニケーションをとっているという話題は、よく聞く話です。帰国した技能実習生が、現地の日系企業への営業活動を担当していますよ、という報告も聞いています。もちろん、作業現場では、外国人が、日本語の図面や作業指示書を読みながら、ものづくりを行う時代が進んでいるのです。介護の現場も同様です。英語のコミュニケーション能力を高めながら、同時に、やさしい日本語でコミュニケーションを取ることも重要になってきているのだと思います。

 

――現場レベルもそうなんでしょうけど、企業だったらその社長なりトップの方々がやさしい日本語に意識を向けて、本人もやさしい日本語を使える形にして、裾野を広げる一助となっていかないと、公用語としての日本語がしっかり定着していかないということでしょうか?

 

そうだと考えます。ダイバーシティ経営のガイドラインである経済産業省の「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」でも、経営陣によるコミットメント、組織経営上の様々な取引と連動した全社的な実行と体制の整備が重要だと指摘されています。

経営者の姿勢が従業員の姿勢に繋がるという点も、ご指摘のとおりだと思います。ふだん、外国人の従業員と接するのは、現場の日本人の従業員の方々です。だから、外国人雇用には日本人従業員の理解と協力を得ることが重要となります。

経営者、管理職だけでなく、現場で働く日本人の従業員が、外国人従業員とわかりやすい日本語で接する環境を、会社のなかで作っていく取り組みも大切なことだと思います。それが外国人の皆さんの日本語でのコミュニケーション能力の向上にもつながるものと思います。

 

――いまコロナで日本も世界も大変ですが、冒頭の分断の話で言えば、ある種コロナは多文化社会に向けての踏み絵とも言えそうです。外国人労働者にとってコロナの影響はどう出ているのでしょう?

写真提供:ベトナム・エスハイ社

コロナ禍で日本の雇用情勢がこれほど厳しいにもかかわらず、2020年の外国人労働者数は、過去最高を更新しました。2019年から2020年の1年間で4.0%ほど増え、172万人となっています。外国人を雇用している事業所の数は、前年比10.2%増。約27万か所となりました(厚生労働省「外国人雇用状況届出状況(毎年10月末現在)」)。
私がインタビューしたところでも、外国人の雇用を継続あるいは増加させているところがありました。例えば、コロナ禍で消毒液のポンプや容器の需要増に対応しているプラスチック成形加工を行う会社や、いわゆる、おうち需要などで利用者が拡大した食品製造の会社です。自動車部品の製造をしている会社でも、発注が増えているという声を聞きました。

写真提供:株式会社ワールディング

コロナ禍では、業種や企業、雇用形態によって明暗が分かれている様子がうかがえます。例えば、留学生のアルバイトは減っています。留学生は、資格外活動の許可を受け入れば週に28時間までアルバイトを行うことが認められています。とくに、飲食・サービス業でアルバイトを行う留学生が多いため、アルバイト先が時短や自粛要請となった留学生は、深刻な影響を受けたことが報告されています。

2020年の夏に、私は仕事を失った技能実習生に会ってきました。監理団体の支援を受け、雇用保険を申請し、求職活動をしていました。宿舎は、監理団体の研修施設の寮です。地域のボランティアからの野菜等の食糧支援も得て生活していました。技能実習生については、このような監理団体による支援が事態の更なる悪化を防いでいるという面もあると思います。

 

それから在留資格「定住者」、とくに、中南米出身の日系人の労働者数が減少しています。日系人の方々は派遣・請負で働いている人が多いのです。2008年秋のリーマンショック(世界金融危機)の時にも、日系人の方々は雇止めや解雇に直面しました。当時も派遣切りが社会的な問題となりました。2009年には、日本政府が帰国支援金を支給し、約2万人の日系人の帰国を支援したということがありました。

コロナ禍では、多くの外国人の方が、帰国したくても、思うように母国への帰国が叶わないという状況に直面しています。日本政府は、帰国困難となった方が、不法残留者とならないように、特定活動の在留資格を付与し、就労も許可するなど、出入国管理政策上の特例を用意するほか、雇用調整助成金の拡充、持続化給付金、就職支援、特別定額給付金を支給するなど、外国人の雇用維持・生活支援策を講じました。こうした政策の効果もあり、外国人の雇用は、マクロでみれば、2020年は対前年比微増で推移しましたが、とくに、コロナ禍が直撃した業種・企業に従事する外国人の生活に深刻な影響が及んでいると思います。

 

――派遣切りは、日本人のなかでも問題になっていますから、外国人の方はなおさらではないかと思います。そういう実態がコロナ禍で見えにくくなっているなら、状況は深刻ですね。ワクチン接種が進んでいますが、withコロナ、アフターコロナではどうなっていくのでしょうか?

 

 

With コロナとアフターコロナというお話しがありました。コロナ禍が長期化していますから、With コロナの間は、外国人の雇止め対策や心のケアの拡充が重要な政策課題であり続けると思います。

アフターコロナが、いつ頃になるか、私には医学的なことはわかりませんが、感染状況が落ち着いてきたといわれているアメリカやイギリスなどでは、景気が回復傾向を示しています。

世界経済は、コロナ・ショックといわれる景気の大幅な落ち込みを経験しました。withコロナといわれる時代の中で、政府は、大規模な財政支出と金融緩和を継続していますので、その反動で、景気のV字回復を経験することになるのかもしれません。そうすると、再び、日本で外国人労働者受入れ問題が注目されていくことになるのではないかと見ています。

 

――世界の人の移動のトレンドと生産年齢人口のことを考えると、企業や組織の発展にはそういったさまざまな国からの外国人をいかに受け入れて、共生していくかが大きなカギを握ってくることが理解できましたし、そこにはきめ細やかなコミュニケーションが大切だということもわかりました。ただ、まだまだ課題が多いと感じました。

当たり前ですが、ただ人が国境を超えてやってくるのではなく、それぞれ思いがあって、それぞれ文化的な背景や生活習慣も違うわけです。そこの差異性を生かして新しい文化や社会を共創していくことは一筋縄ではいきません。とくに先生がおっしゃるように日本は戦後、ヨーロッパ諸国とは対照的に、多くの移民を受け入れずに復興したという歴史的な経緯もあります。外国人が増加してきたのは最近のことで、諸外国に比べても歴史が浅いものです。長い目で粘り強く共生環境を作っていくことが大事だと感じましたが、万城目先生が目指す多文化共生社会とはどういったもので、とくにどのような取り組みが必要だと考えていますか?

 

多文化共生社会は、上から押し付けられるものであってはならないと思います。社会の分断を招くことが心配されるからです。
だから、私は、多文化社会に向けて、とくに中小企業と地域社会の取り組みが鍵になると思っています。ノウハウをみんなで共有しながら地域社会を作っていく。その意味では、共に生きる「共生社会」よりも、共に創る「共創社会」という考え方に私は共感を持っています。そして、共創による地域社会づくりを支援する仕組みが求められているのだと思います。

 

写真提供:株式会社ワールディング

また、多文化社会づくりのインフラとなる外国人労働者受入れ政策を立案・評価するためのデータの整備は不可欠なことだと思います。データに基づく、冷静な議論が必要です。

たとえば、賃金です。国の賃金センサスに外国人の項目がなかったので、長年、外国人労働者の賃金の実態でさえデータでつかむことができなかったのです。これが、2019年から、ようやくわかるようになりました。

2019年の賃金センサスをみると、たとえば、技能実習生の給料は、所定内給与が月15万6900円、賞与が年間約2万円、残業が月約30時間、平均で月19万4800円の給与であることがわかります。そして、技能実習生の勤続年数に応じて給与が上昇していることもわかります。

つぎに、正社員、正職員以外の身分に基づく在留資格の方の給料をみると、3年、5年、10年と勤続年数を重ねても、所定内給与が月20万円くらいで、ほとんど上がっていないことがわかります。派遣・請負の形態で働く外国人は少なくありません。

 

これらはデータから見える僅かなことに過ぎません。

写真提供:株式会社ワールディング

中長期にわたって在留する外国人が増加する中、外国人のこどもの教育や高齢化の問題を考えるうえでも、こういったデータを整備し、しっかり見て議論していくことが非常に大事なことだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

外国人を受け入れ、育成することを旗印に
環境と人権への投資が多文化共創・協働の果実を産む

 

私は外国人労働者の問題は、日本の社会が抱える課題を映し出すハンドミラーみたいなものだと考えています。その意味も込めて、国連が提唱する「持続可能な開発目標」(SDGs)の考え方にそって、日本の社会や産業の在り方を見直すきっかけにしてはどうだろうか、と思っています。

経済的に考えれば、市場では、ひたすらに安くて、短期間につくられた製品が、いつでも買える便利さが歓迎されます。しかし、そのために必要な労働力を国外に求めて、低賃金・低技能の外国人労働力を受け入れるという発想では持続可能な社会は実現できないと思います。

国連は、2000年に「補充移民」という考え方を提起し、高齢化、人口減少を押しとどめるために、先進各国で、どれだけの移民の受入れが必要となるか、試算を行っています。その試算によれば、日本が生産年齢人口(15歳~64歳の人口)を維持するためには、2000年から2050年まで、毎年65万人の移民受入れが必要だというのです。2020年末時点の在留外国人数が約293万人ですから、とても現実的な数字ではありません。
受け入れた外国人も年齢を重ね、やがて高齢者となります。アジアでも少子高齢化が始まっていますので、将来にわたって多数の外国人が来日してくれるかということも考慮する必要があると思います。

だから、外国人の受け入れは、人口減少や人手不足を補うという、単なる数合わせの議論ではなく、人材育成のビジョンを共有し、生産性の向上を通じて、いかに企業や社会が発展できるかを重視することが必要だと思っています。

 

それから人権の問題です。外国人を雇用する事業所は、中小企業が多くを占めていることはデータを用いてご説明しました。これらの企業は、元請けの企業から、製品の受注を受けて生産を行う下請けの企業であることが少なくありません。
SDGsの目標12では、つくる責任・使う責任が問われています。「ビジネスと人権」の問題です。企業の人権責任については、2011年の国連人権理事会で、「ビジネスと人権に関する指導原則(ラギー・フレームワーク)」が採択されています。企業が人権尊重責任を負うことが確認され、英国では現代奴隷法(2015年)、米国では連邦調達規則(2015年)、フランスでは人権デューデリジェンス法(2017年)が採択されています。

 

日本でも、日本経団連が、SDGsの達成に向けて、2017年11月に「企業行動憲章」を改定し、「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、グループ企業、サプライチェーンにも行動変革を促すように求めました。日本政府も2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020ー2025)を策定しました。
元請けから下請けまで、製品のサプライチェーン(商品・サービスの供給網)全体で、外国人の人権を保護するための取組が活発になり、中小企業が製品を受注する際、外国人労働者の労働環境や法令順守が取引条件になっているという話も多く聞くようになっています。

 

そして、わたしたち消費者にも、「使う責任」が問われています。自動車や家電の製品、シャツや制服などの衣料品、朝採れのレタス、ソーセージ、卵、パン、魚・肉、果物など、誰が生産したか考えたことがあるでしょうか。いまや外国人労働者が日本のものづくりや食システムを支えています。さきほど申し上げたとおり、市場では、ひたすらに安い製品が好まれますが、労働者の人権に配慮した適正な価格で取引された製品となるように、生産者だけでなく、消費者にも、意識の変革とコストの負担が求められているのだと思います。食品ロスや製品の無駄な廃棄は、環境だけでなく人権にも負荷を与えていると考えるべきでしょう。

 

外国人労働者の受け入れニーズは、日本人が敬遠する人手不足の作業分野となる傾向があります。より単純な作業ほど、賃金が低い傾向があります。そこをどうマネジメントしていくのかという視点も重要です。日本が、人材育成することを旗印にしていかないと、生産性の向上を通じた企業や社会の発展も見込めません。そればかりか、人材育成を疎かにして、外国人が低技能・低賃金のまま中長期にわたって在留することになれば、外国人の子どもの教育にも影響が及び、貧困が世代を超えて連鎖してしまうのではないか、労働市場の分断や格差の拡大につながるのではないか、という指摘もなされています。活力ある多文化社会づくりは、人材育成を重視し、国際協力の視点を持って、人権・環境に配慮した多様性と包摂性のある持続可能な社会に向けた取り組みの一環として検討されるべき課題であると思っています。

 

 

――大変勉強になりました。
我々の取り組みがどこまでその問題の解決に役立てるかはわかりませんが、進んでいる方向には間違いはないと確信しました。

本日は貴重な時間をいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

<まとめ>

本日のインタビューでは、万城目先生が、日本の多文化共生社会に向けた歩みを、日本の経済・社会のグローバル化の問題と捉えてご説明されていた点が印象に残りました。その上で、外国人労働者の増加が、中小企業や地域社会にどのような影響を及ぼすのか、データや実例、効果や課題、問題点も交え、コメントしていただきました。

インタビューを進める中で、日本語が、多文化社会の基盤となるものであることも、よくわかりました。日本語が日常生活におけるコミュニケーションのツールとしてだけでなく、外国人の方々が、職場で意欲を持って働き、スキルアップするために、そして、事故や危険から身を守るためにも重要なものであるという指摘もうなずけるものでした。

 

最後に、外国人労働者の受入れを、経済の観点から、複眼的に考える必要があることについて、多くの気づきがありましたので、万城目先生のご指摘をまとめてみたいと思います。
外国人労働者が一時的な出稼ぎのために入国しても、欧州など諸外国の経験を踏まえると、今後、日本でも、時間の経過とともに中長期にわたって在留する外国人が増加することが見込まれます。外国人が、中長期にわたり在留し、やがて定住することになれば、年金・健康保険などの社会保障、家族の呼び寄せ、子弟の教育など、社会的コストが増加することが予想されます。しかし、その場しのぎで多くの外国人労働者を受け入れれば、そのコストは、将来、さらに大きくなることも心配されます。それゆえに、共生社会づくりに向けた取り組みが大切であり、日本語教育はその重要な施策の一つであるというのです。

同時に、その難しさも指摘されています。例えば、外国人も日本人の若者と同様に、都市部の産業に移動・転職してしまうかもしれないというのです。景気の動向によっては失業者が増えるのではないか、日本人の雇用や賃金に悪影響があるのではないか、それによって、格差の拡大や社会の分断がもたらされるのではないかと心配する声もあります。さらに、外国人労働者も年齢を重ねますので、やがて、高齢化した外国人が日本の社会保障制度に依存することになるでしょう。外国人労働者を送り出す地域、特にアジアでは既に少子高齢化が始まっていますので、将来にわたって、外国人の方々が来日してくれるのか、不確実といえるかもしれません。日本経済への影響を踏まえると、外国人労働者の受入れによって、生産性の低い部門を温存させることになれば、産業構造の高度化を遅らせ、日本経済に負の影響を及ぼすことも指摘されているというのです。

 

経済は、労働、資本、技術の3つの要素から構成され、経済成長は、それらの要素の変化によって決定されるといいます。労働投入に依存して経済成長を図るのか、それとも、資本や技術に着目し、ICT(情報通信技術)・AI(人工知能)による技術革新によって、長時間労働・サービス残業といった日本の雇用慣行から脱却し、一人当たりの労働生産性を上昇させ、日本経済の活力を維持・発展させるのか、欧米の社会が直面している移民問題の難しさ、多文化や多様性がもたらす経済・社会への正の効果も踏まえ、日本経済の今後のあり方を展望し、どのような経済社会を構築していくのか、多文化社会は、人権・環境に配慮した多様性や包摂性のある持続可能な社会づくりの観点から、検討することが求められているのだという認識を深めました。

 

 

 

 

この記事を書いた人

聞き手:
ダンクの「やさしい日本語」プロジェクト

『ダンラク』を運営する株式会社ダンク内のプロジェクトチーム。2018年結成。
長年培ってきた総合的な“編集力”を生かし、「やさしい日本語」をより身近なものにすべく活動を続けている。

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ライター:佐藤 さとる
1961年福島県生まれ。ライター兼編集者。出版プロダクションなどを経てフリー。ビジネス・ベンチャー系雑誌等で中小・先端企業を10年以上取材。月刊誌、週刊誌、教科書、辞書、単行本のほか会社案内、企業PR誌、WEB等の企画、取材、執筆、編集を手がける。ビジネスパーソンを中心に過去約4200

人をインタビュー。近年は企業のコミュニケーション・コンサルティングも手掛ける。2007年〜2008年 福島県原町商工会議所地域観光振興委員。著書に『なぜわたしは町民を埼玉に避難させたのか—証言者 井戸川克隆』(共著)[駒草出版] 『広告業界がわかる』『エクストリーム・ウェア -究極の服をつくる技術- 』『技術を「魅せる化」するテクノロジーブランディング』[技術評論社]ほか。座右の銘は「地の塩」。

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